労働災害により死傷した場合、災害が発生した原因につき、会社(事業主)にも責任がある場合には、会社(事業主)に対して民事上の損害賠償請求をすることが可能です。
会社(事業主)の責任のうち、代表的なものが安全配慮義務違反といわれるものです。
この安全配慮義務については、例えば、労働契約法5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定義されております。
また、労働安全衛生法3条1項においても、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。」と定められています。
つまり、事業主は、労働者の生命、健康を守る義務を負っているのです。安全配慮義務違反という概念自体については、平成20年3月に労働契約法5条が施行される前から、判例法理として成立していました。
安全配慮義務違反の具体例
既に述べたとおり、労災申請を行い、労災認定の結果が出たとしても、会社(事業主)に対して損害賠償請求を行うためには、安全配慮義務違反などの義務違反が存在する必要があることには注意が必要です。
例えば、過重労働、ハラスメント、工事現場で発生した労災事故などで、会社(事業主)の安全配慮義務違反が追及されることが多いです。
安全配慮義務の具体的内容は、作業現場や作業環境によって大きく変化します。
例えば、転落事故の可能性がある作業現場における安全配慮義務では、
- 作業床や手すりを設置しているかどうか
- 安全ベルトの支給や転落防止用ネットを設置しているかどうか
- ヘルメットや安全靴を支給しているかどうか
- 安全に対する教育を実施しているかどうか、またその内容はどうか
- 不安全行動に対する注意はどうしているか
- 日常の健康管理はどうしているか
などが要素として挙げられます。
このような、本来であれば会社(事業主)が対策をしていなければならない点について、安全配慮義務の内容が遵守されていたかどうかを、事故が発生した場面において検討しなければなりません。
法律は従業員の安全は会社が守るべきものという立場に依拠していますが、この安全配慮義務について詳しく知っている会社や従業員はほとんどいないといってよいのが実情です。
従業員にも落ち度があったからなどと簡単には終わらせず、労働災害に精通した弁護士の目から果たして会社に安全配慮義務違反がなかったのか、慎重に検討することが望ましいでしょう。
また、会社の安全配慮義務違反を問うためには、証拠が必要になります。
被災者側としては、事故発生直後から、証拠の確保等を行うことができると後々役立つことが多いです。
事故現場の写真や目撃者の証言なども有用ですし、後日災害について社内で注意喚起がされたことや事故を起こした機械に注意書きが付されたことが証拠につながった例もあります。
また、労災が認定されている場合、労働基準監督署から会社に何らかの指導、是正勧告がなされていると、この内容が安全配慮義務違反につながることもあります。
このような会社(事業主)に安全配慮義務違反が認められる場合、被災者は会社(事業主)に対して民事損害賠償請求をすることができます。
具体的な請求方法や内容については以下をご参照ください。