労災保険は、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく保険制度で、業務災害または通勤災害によって、労働者が怪我・負傷や疾病、障害を負った場合や、不幸にもお亡くなりになった場合にその労働者や家族の生活などを補償するために給付を行う保険のことです。
労働者を一人でも使用する事業主は、一部の例外を除き、法人・個人事業主の区別なく労災保険に加入する義務があります。
また、仮に会社が労災保険の加入手続きをしていなかったとしても、労働者は労災保険の適用を受けることが出来ます(強制加入制度:労災保険法3条1項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条)
本来であれば労働災害が発生した場合、労働者を雇っている事業者が被害を受けた労働者やその遺族に対して、療養に関する補償や遺族補償などの各種補償を行わなければなりません。
すなわち、労働基準法第8章災害補償には、使用者の災害補償責任が定められており、使用者の故意・過失の有無にかかわらず、使用者は、労働者に、療養補償、休業補償、打切補償、障害補償、遺族補償、葬祭料という災害補償をしなくてはならないとされています。
しかし、労働基準法上の災害補償規定は、責任主体が使用者であることから、使用者が無資力であるなどの理由によって、支給が確保できない等の問題がありました。
そのような経緯を受けて、労働者の保護を図り補償の実効性を確保するために労災保険法が成立しました。
労災保険はこれらの補償を国が代わりに行うための保険ですので、被害者にとっても事業主にとっても、非常に重要な保険制度となります。
なお、通常“保険”というと、その加入者は被保険者のことをいいますが、労災保険の場合には、事業主がその加入者であり、労働者は加入者ではありません。
災害を受けた労働者またはその遺族が給付の申請をした場合、申請をした給付について支給決定が出ればそれぞれ決められた基準で金額が支給されます。
労災保険上の労働災害は大きく分けると「業務災害」と「通勤災害」の二つに分類することが出来ます。
業務災害
業務災害とは、業務が原因となって発生した事故によって被った負傷、疾病、障害等を意味します。業務災害として認められるためには、業務と障害等の間に一定の因果関係があることが必要となります(「業務起因性」)。
また、業務災害に対して労災保険の給付を受けるためには、やや難しい話になりますが、労働者が雇用主との契約に基づき、雇用主の支配下や管理下にある状況において災害が発生したことも必要となります(「業務遂行性」)。
そのため、労働者が業務に従事している間だけでなく、例えば休憩時間中などであっても、事業者が指揮監督を行いうる余地があって、その限りで事業主の支配下にある場合には、原則として業務遂行性があるとされます。
他方、業務遂行性が認められる場合であっても、休憩時間中の個々の自由行動が原因となった災害については、業務起因性が否定される可能性が高いです。
通勤災害
通勤災害とは、「労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復する途上における事故であり、業務の性質を有しないもの」とされています(労働者災害補償保険法第7条2項)。
ここでいう「合理的な経路及び方法」の解釈判断については、個別の事情をもとに決定されますが、専門家でないとなかなか難しいケースがあります。
通勤に通常利用できる経路や交通手段が複数ある場合、ここでいう「合理的な経路及び方法」は必ずしもひとつに限られません。
但し、通勤途中の事故であればどんな場面でも通勤災害となるわけではありません。
通勤と関係のない私的な理由で寄り道をした途中に事故に遭った場合などには、「逸脱」として通勤災害が認められない場合があります。
被災者にとって労災保険の給付を受けられるかどうかは極めて重要な問題ですが、法的な解釈については一般の方がなかなか分からない部分がございますので、少しでも気になる部分があれば専門家にご相談されることをお勧めします。
労災保険から給付される内容
労災保険の給付対象と認められると、主に以下の給付を受けられることができます。
療養(補償)給付 | 治療費、入院費、薬剤等の治療に必要な費用の補償が受けられます。 |
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休業(補償)給付 | 休業4日目から、休業1日につき、給付基礎日額の80%が支給されます(特別支給金を含む)。 |
障害(補償)給付 | 後遺障害が残ってしまった場合、障害の程度に応じて支給されます。 |
遺族(補償)給付 | 労災により労働者が死亡した場合、遺族に支給されます。 |
他にも、葬祭料、傷病(補償)年金、介護(補償)給付なども給付の対象となります。
各保険給付の具体的な請求方法は以下をご参照ください。