業務災害によって被災者がけがなどを負い、その後適切な治療を受けたにもかかわらず、身体の機能等が完全に回復せず、機能障害(関節の可動域の制限等)や神経障害(麻痺が残ってしまう)などの症状が残ってしまうことがあります。
医師に「医学上、これ以上の回復が見込めない」と判断された場合に身体に残ってしまった症状を「後遺症」といいます。この「後遺症」は医学的な概念です。
そして、この「後遺症」によって被災者に労働能力の低下や生活上の支障が生じているときには、これを「後遺障害」として評価することになります。
「後遺症」と「後遺障害」は同一のものではないことに注意が必要です。
尚、「医学上、これ以上の回復が見込めない」と判断された段階のことを、「治ゆ」や「症状固定」と呼びます。
後遺障害が残ってしまった場合、請求できる損害項目の主要なものとして逸失利益と後遺障害慰謝料があります。労災に対しては、逸失利益に相当する障害(補償)給付の請求ができます。加害責任者がある場合には、逸失利益と後遺障害慰謝料の請求をすることができます。
1. 労災へ請求する場合
(1) 労災保険では、傷病の治療が終了し、身体に一定の障害が残存した場合には、その労働者に残存する「障害の程度」に応じて、障害補償給付や障害給付を支給することとなります。具体的には、障害(補償)給付支給請求書、医師の診断書を労基署に提出し、所轄の監督署が後遺障害の等級を決定します。
後遺障害には後遺症の程度により、一番重度の第1級から14級まであります。
労働災害で後遺障害を負った場合に申請をすれば得られる給付(障害(補償)給付等)の金額は、この後遺障害の等級によって、大きく異なります。
等級に応じて以下のような年金ないし一時金の支給が得られます。
※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。
障害等級 | 障害(補償)等給付 | 障害特別支給金 | 障害特別年金 | 障害特別一時金 | ||||
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1級 | 年金 | 給付基礎日額×313日分 | 一時金 | 342万円 | 年金 | 算定基礎日額×313日分 | ||
2級 | 年金 | 給付基礎日額×277日分 | 一時金 | 320万円 | 年金 | 算定基礎日額×277日分 | ||
3級 | 年金 | 給付基礎日額×245日分 | 一時金 | 300万円 | 年金 | 算定基礎日額×245日分 | ||
4級 | 年金 | 給付基礎日額×213日分 | 一時金 | 264万円 | 年金 | 算定基礎日額×213日分 | ||
5級 | 年金 | 給付基礎日額×184日分 | 一時金 | 225万円 | 年金 | 算定基礎日額×184日分 | ||
6級 | 年金 | 給付基礎日額×156日分 | 一時金 | 192万円 | 年金 | 算定基礎日額×156日分 | ||
7級 | 年金 | 給付基礎日額×131日分 | 一時金 | 159万円 | 年金 | 算定基礎日額×131日分 | ||
8級 | 一時金 | 給付基礎日額×503日分 | 一時金 | 65万円 | 一時金 | 算定基礎日額×503日分 | ||
9級 | 一時金 | 給付基礎日額×391級 | 一時金 | 50万円 | 一時金 | 算定基礎日額×391日分 | ||
10級 | 一時金 | 給付基礎日額×302級 | 一時金 | 39万円 | 一時金 | 算定基礎日額×302日分 | ||
11級 | 一時金 | 給付基礎日額×223級 | 一時金 | 29万円 | 一時金 | 算定基礎日額×223日分 | ||
12級 | 一時金 | 給付基礎日額×156級 | 一時金 | 20万円 | 一時金 | 算定基礎日額×156日分 | ||
13級 | 一時金 | 給付基礎日額×101級 | 一時金 | 14万円 | 一時金 | 算定基礎日額×101日分 | ||
14級 | 一時金 | 給付基礎日額×56級 | 一時金 | 8万円 | 一時金 | 算定基礎日額×56日分 |
一度後遺障害の等級について判断がされ支給(不支給)決定がなされると、その判断内容に不服がある場合でも異議申立に期間の制限があることや、一度理由をもって認定がされたものを覆さなければなくなることから、非常に難しい面がございます。
(2) 労働者が労働災害によって負傷し治療が完了し、身体に何らかの痕跡が残ったとしても、その障害が下記障害等級表に該当しない程度のものであれば、障害補償給付が行われないことには注意が必要です。
2. 加害責任者(会社・第三者)に請求する場合
(1) 上述のとおり、後遺障害が残ってしまった場合、逸失利益は労災から補填されますが、後遺障害慰謝料は補填されません。
加害責任者がある場合は、後遺障害慰謝料については、こちらに請求することになります。また、労災から逸失利益として支給される金額についても、差額を加害責任者に請求できる可能性があります。
(2) 後遺障害慰謝料の計算は例えば交通事故における裁判所の基準では後遺障害の等級に応じて決定されていますので、これを参照することが多いでしょう。
逸失利益は、事故前の課税前収入に、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算されます。
もっとも逸失利益は金額が多額になりがちな一方、個々の事例による修正や判断が多くなされる項目になりますので、一度専門家に具体的な計算方法を相談することをお勧めします。
(3) 加害責任者に請求するためには、後遺障害の等級や内容を明らかにしなければなりませんが、通所労基署からは支払いに関するハガキが来るのみでそこには認定に至った理由等は記載されていません。
例えば裁判等をする場合には、労働局から後遺障害の認定の理由等を記載した書類を個人情報の開示請求という手続きにのっとって取得することがあります。
法律事務所の中には、事業主との交渉しか依頼を受けていない先生もおられますが、当事務所では、災害発生直後からご相談を受け、後遺障害等級の認定も含め、ご相談に応じています。
後遺障害はその等級に応じて得られる金額が大きく変わる可能性がある為、まずは適正な等級認定を受ける必要があります。是非早期のご相談をお勧めします。