労働災害に遭って怪我を負い、怪我の治療のために入院や通院が必要になった場合、被害者の方は治療に必要な費用や、入院・通院によって仕事を休む必要が生じて収入が減少した分の補償などを労災又は加害責任者に対して請求することができます。

労災からの支給は基準に基づき定型的に判断されますが、加害責任者に対する請求はその必要性相当性についてケースバイケース・個別具体的に判断されることがあります。

1. 労災へ請求する場合

(1) 治療費等

ア. 治療費

被災した場合の治療にかかる治療費は、療養補償給付として支給がされます。

治療費については早急な支払いが求められるため、労災指定病院であれば、所定の書式(療養補償給付たる療養の給付請求書)を病院に提出することで、病院から直接労働基準監督署に治療費の請求がなされ、被災者本人が病院の窓口で治療費を立て替える必要がありません。

指定病院でない場合は、被災者が窓口で治療費を立て替えてる必要があります。

治療費の給付については、症状が治癒(固定)するまで行われます。

イ. 入院費

入院費についても同様の方法で給付がなされます。

但し給付される入院費は一般病棟の室料が基準となっているため、個室を希望して高額な室料になってしまった場合などには、原則としてなかなか高額分の室料の請求が認められない可能性があります。

もっとも、例えば重篤な症状で入院する場合や、他に病室の空きがなかったという場合においては、高額分の室料も請求することが可能な場合もあります。

ウ. 交通費

通院に関る交通費においては、電車やバス、タクシーなどに乗車して通院した際の料金を請求することが可能ですが、片道2km以上の距離等一定の条件があります。

自家用車を利用して通院した場合は、通院に必要となった各交通費、例えばガソリン代金(1kmあたり37円)、駐車場の代金などを請求することができます。

また、タクシーの利用金額を請求できるのは、例えば被害者のお住まいの交通の便や怪我の症状などで、公共交通機関を利用することが容易ではない場合に限られます。

(2) 休業損害

ア. 休業補償給付

労働災害により休業を余儀なくされた場合、休業した期間の第4日目から休業補償給付が支給されます。

初日から第3日目までは待機期間として、労災からの支給はなされません。具体的な手続きとしては、会社と病院からそれぞれ所定の事項を証明してもらった「休業補償給付支給請求書」を労働基準監督署長に提出することになります。

イ. 計算方法

休業補償給付の計算に当たっては、例えば給与所得者の場合であれば、事故前の1日あたりの収入(給付基礎日額)と、休業日数が計算の基礎になります。

休業補償給付として給付基礎日額の6割に休業日数を掛け合わせた金額が、休業特別支給金として給付基礎日額の2割に休業日数を掛け合わせた金額が支給されます。

ウ 支給を受けられなかった部分

労災により支給を受けられなかなかった部分については、加害責任者(会社・第三者)に請求することを検討します。

(3) 入院・治療・怪我に対する慰謝料

入院・治療・怪我に対する慰謝料とは、災害によって被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料を指しますが、労災により一切支給されませんので、加害責任者(会社・第三者)に全額を請求することになります。

2. 加害責任者(会社・第三者)に請求する場合

(1) 治療費等

労災の対象となる案件については手続きの簡便さ、迅速性等から労災(療養補償給付)を先行して受給し、加害責任者に治療費等の請求をせずに終わることも多いです。

もっとも、労災には交通費の支給に際し片道2km以上の距離等一定の条件がありますが、条件を満たさない場合であっても必要性相当性が認められれば加害責任者に請求が可能である場合があります。

また、入院中個室を使った場合の差額ベッド代等も同様です。

直接加害者責任者に請求をする場合に決まった書式等はありません。必要性相当性があると認められるよう資料を揃えるべきですが、入院中の個室の必要性、タクシーの必要性などについては、医師の診断書等の医学的資料は裁判の場でも有力な証拠となることが多いです。

(2) 休業損害

上述のとおり、労災における休業補償給付は、①第4日目から支給が開始する②給付基礎日額の6割に休業日数を掛け合わせた金額が支払われるといった特徴があります。

ですので、支給を受けられない部分(初日から第3日目までの待機期間分、給付基礎日額の4割に相当する部分)の賠償を受けるためには加害責任者に直接請求をする必要があります。

この場合、労基署に提出する休業補償給付支給請求書の写しをもって、事故がなければ得られたはずの収入、休業の日数・必要性を証明するという方法があります。

また、交通事故の場合休業損害証明書という自賠責保険会社の書式がありますが、別途これを作成するという方法もあります。

例えば、有給を消化した場合労災では支給の対象となりませんが、加害責任者に同部分の賠償を求めることが可能です。この場合、休業損害証明書上で有給の詳細を証明してもらうことが考えられます。

(3) 入院・治療・怪我に対する慰謝料

上述のとおり、入院・治療・怪我に対する慰謝料は、労災により一切支給されませんので、加害責任者(会社・第三者)に全額を請求することになります。

この場合、具体的な金額を算定するにあたり、交通事故で参照される慰謝料の表(赤い本基準)が参考になるでしょう。同基準では、原則として入院・通院の期間を参照して慰謝料が決定されています。

入院・通院を開始してから、治癒(症状固定)日までの期間が長いほど、慰謝料の金額は増額する様設定されています。もっとも、怪我の内容による修正、通院の実日数による修正等がありますので、具体的な金額の算定にあたっては弁護士にご相談されることをおすすめします。